エンゲージメント・ファーストでは、経済的価値と社会課題解決の両立を図るCSV(Creating Shared Value)や、秀逸でユニークなSocial Goodの取組みを行う企業や団体等の皆さまを Shared Value ベスト プラクティスとして表彰をさせて頂いています。今回は、セブン-イレブン・ジャパン 様を対象に授与させて頂きました。
「近くて便利」をコーポレートメッセージに掲げる、業界最大手のセブン-イレブン・ジャパン。2万店に届こうとする国内店舗ネットワークとオリジナル商品の開発力は競合他社の追随を許さない誰もが認めるリーディング・カンパニーと言えるでしょう。
そして、この度、セブン-イレブンでは、待機児童問題や多様な人材の活躍を目的として、加盟店従業員や地域住民等を対象とした保育施設 「セブンなないろ保育園」 をスタートしています。まさに社会課題を起点としたこのサービス開発のきっかけやその意義をお伺いしました。
<インタビューにご協力頂いた方々>
株式会社 セブン-イレブン・ジャパン
オペレーションサポート部 総括マネジャー兼 企業行動推進室 社会価値創造部会長 安見 勉 様(左)
オペレーションサポート部 オペレーション支援 担当マネジャー 大内 実 様(中)
企業行動推進室 マネジャー 千葉 茂 様(右)
●セブン-イレブンさんは、2017年10月から、なないろ保育園をスタートしています。こうした取組みをスタートしたきっかけを教えてください。
安見 様:オーナーさんを含めた現場からの声というのが挙げられます。加盟店のオーナーさんは日々、従業員の方々と仕事をしていますが、中心的な役割を果たしているのは、日中働いて頂いている女性が挙げられます。そうした方々が出産により、これまでの働き方が制限されてしまうことがあります。
お子さんが産まれても働ける環境を整えたい、こうしたことを本部としてバックアップできないかと考えていました。
内閣府が進める企業主導型保育事業は、弊社でも活用することができるのではないか?と考えた時に、国からは助成金を頂いて、弊社も投資をし、加盟店のオーナーさんにも一部ご負担を頂き、保育事業者の方々と連携して、社会課題の一つである待機児童の解決の一助になるのではないか?
最初から確固たる考えたがあったというよりは、様々な意見や提案を検討し、普段の仕事の中で考えていくと繋がっていくものがあるんです。
また、本質的には、多様な人材に活躍して頂きたいという考え方があります。
そうした考え方から、高齢者の方々を対象にしたシニア仕事説明会を開催したり、外国人の方々にもミスマッチをなくし働いて頂ける様、きちんと説明をしたり、貴重な戦力となっています。
小さなお子さんを抱える女性に対しても、そうした考え方の一環の中で、なないろ保育園が女性のバックアップの一助になるものと位置付けています。
●今回は、東京都大田区と広島の2店舗から開始しています。
安見 様:場所の選定は、その地域の待機児童の数が重要な指標になります。困っている人が多い地域であることと、そして、どういう環境下でその施設が提供できるのかと考えた時に、店舗の2階であったり、隣接する場所等、物件も重要です。
東京都は多くの待機児童を抱えていますが、大田区はその数が多いエリアとなっています。そのエリアの、ある店舗の2階に空きがあったこともポイントとなりました。
また、保育そのものは、保育事業者さんにお願いをするわけですが、保育事業者さんの理念や、子どもの保育への想いがとても重要です。
●単なる保育園の場所の提供ではないということですね。保育園を通して、子育て支援や多様な人材の活躍に貢献しているわけですね。現場での雇用面での反応は如何ですか?
安見 様:施設の広さや、お子さんの年齢や人数等、お預かりできる限度があります。大田区は30名、広島は19名のお子さんをお預かりできますが、来年3月~4月の節目の時期には、ほぼ埋まることが予想されます。
ある従業員さんからは、「働く場所と子どもを預ける場所は同時に見つかってとても助かった」、「勤務先の産休から6ヶ月で復職できるとは考えてもいなかった」等のうれしい感想を頂いています。
また、「セブン-イレブンが主体でやっている保育園なら安心して預けて働ける」とのご意見もありました。
弊社の従業員でなくても、地域のお子さんもお預かりする、地域の人たちにも開かれた保育園ですので、そうした地域の方のバックアップの役目も果たしています。
●これまでのコンビニ機能から地域での新しい価値や役割を提供しています。
安見 様:店舗のオープンに立ち会うこともありますが、高齢者の方から近くに店舗が出来て良かったと仰って頂けます。当たり前のことですが、店が出来たということは、その地域に住んでいらっしゃるお客様は便利になりますので、とても感謝されます。
私たちの店舗の商圏は、小さなエリアですが、そのエリアの方々に、何かしら弊社の地域に対しての想いがないと評価されない、評価されなければ、小さな商圏で商売する店が成り立つわけがない。常に地域に密着しなければという想いがあります。
●小さな商圏だからこそ、地域の方々にリピーターになって頂くことが重要ですね。
安見 様:イギリスには、フードデザートという、高齢者が自分の自宅から最寄りの食料品店まで500メートル離れると十分な買い物ができない、ひどい場合には栄養失調になるという研究報告があります。
その距離感と弊社の商圏は、感覚的にとても合致しています。だからこそ店舗を出して、商品やサービスを提供することがその地域の人たちのためになっていると強く感じます。
そうした事からも、地域を意識せざるを得ない、地域の方々に評価してもらわないと成り立たないビジネスモデルであると考えています。
●まさに地域との共創モデルですね。
安見 様:まさにそうです。地域とのエンゲージメントがとても重要なんです。
●日本は社会課題先進国と言われていますが、まさに、地域の課題を本業を通して解決しています。商品そのものの競争よりも、もっと違ったレベルでの価値提供をしていると言えます。
安見 様:様々な方々から、商品の美味しさや、こだわって作っていることにご理解を頂いています。しかし、弊社が考えていることを理解して頂くのはなかなか難しい。取り組んでいることを正しく伝えることは、大事な役割であると感じています。
●ヒューマン・シグマ※という本では、合理的価値よりも、情緒的価値での満足度の高い消費者の方が、LTVも高いとの結果が出ています。合理的価値を重視する人は、その価値がなくなると競合にシフトする。一方で、情緒的価値が高まると、多少合理的価値が薄れても、企業に対して、有益なアドバイスや意見を言う。貴社は、競合他社との競争から、そうした情緒的価値の提供の領域に入られていると感じます。
※ヒューマン・シグマ –複雑な存在従業員と顧客をマネジメントする– (東洋経済新報社) 著者:ジョン H.フレミング、ジム・アスプランド
安見 様:日頃の業務を通して考え続ける中から、色々なアイディアが出たり、様々な人との会話の中で、繋がりが見えてくる。それだけ考えろって言われてもうまくいかない。小さな店でも地域のために何が出来るかを考え続けていると、その中からアイディアが生まれる、それが本質的なCSV(Creating Shared Value 以下、CSV)であると思います。
●貴社はトップ自らも本業を通して社会課題を解決することを掲げています。
安見 様:FC会議で社長が話をする機会がありますが、そうした場でも何度もCSVというキーワードが出ています。
営業的な話も重要ですが、会社はそれだけではない、いかに小さな商圏の中で、地域の方々の信頼を得られるか、そうした事が根底にあるため、CSVの話をする機会も多いのだと思います。
●FC加盟の方々も、売上を上げることは重要ですが、次のステージは、そうした貴社の考えに共感して、一緒にビジネスで地域に貢献したいという考えになりますね。
安見 様:まさしくそうです。売上や利益が上がっていれば良いというのではなく、地域のために何が出来るかと考えることは、本質的なやりがいに繋がります。人との結びつきや先程の情緒的価値の提供はとても重要です。
●社員の方々やFCオーナーさんへのCSVの理解や浸透は如何ですか?
安見 様:FCオーナー様との窓口の部門である、オーナー相談部と共有していますが、なないろ保育園や自転車のシェアリング等、取組みへの評価の声は、非常に多いと感じています。
社内でなないろ保育園を進める中で、法務面等での壁もあって、様々な部署との調整が必要になりますが、取組みそのものの趣旨を理解してもらえた事で、部署間での協力関係も生まれた事を実感しています。
●なないろ保育園の今後の展開は如何ですか?
安見 様:今後は、新店舗併設での開園を予定しています。待機児童の数やエリアの環境、様々なことを考慮してこれからも進めていきたいと考えています。
大内 様:これらのサービスは、2016年迄の3年間で、全国で35台の展開をしていました。2017年度に70台を超える見込みですが、2018年度は倍増させ、今後は、出店エリアの都道府県ごとに、1台以上は走らせたいと思っています。
そして、特にお伝えしたいのが、サービス開始の際の地域の反応の大きさです。2017年11月2日からは、富山県射水市でサービスをスタートしていますが、自治体やマスコミの反響がとても大きかったのが印象的でした。
●地方の方々にとっては、インパクトが大きいサービスなんですね。
大内 様:サービス開始の際は、出発式を開催しますが、射水市では、20名以上の自治体職員の方々の参加もありました。地元のテレビ局や新聞社等のマスコミの方々にも8社にお越し頂き、地元では様々なメディアに大きく取り上げられました。今回に限ったことではありませんが、買い物支援に対する地域住民の方や行政の期待はとても大きいという共通の反応があります。
安見 様:こうした取組みが全国に拡がっていることには、弊社の組織や仕組みが大きく関係しています。弊社は全国を21の地域に分け、4年前からその地域ごとに、行政との連携がメインの業務となる総務担当マネージャーを設置しています。
本部の窓口では、地域の行政の方々と頻繁に打合せはできませんが、地域にいるからこそ、定期的に打合せが出来て、その中から信頼関係が生まれ、行政の方々からニーズや悩み聞くことができる。そうした事に対して、弊社では何が出来るかと常に考えています。これまでの取組みは、そうした仕組みの中で広がっていると言えます。
●事業部門の方々がこうした事を検討すると、ビジネス面の効率や投資対効果が優先されますが、貴社では、なぜそれが出来ているのですか?
安見 様:積極的に進められる理由として、83の地域行政の方々と締結している包括連携協定が挙げられます。また、高齢者を対象とした見守り協定は、400以上で締結しており、そうした土台があります。
最初のきっかけは、地域の農作物等の原材料を使って欲しいといった相談があり、商品作りもしていますが、地域のお客様にもなじみのある商品のために、販売にも結びつきます。
地域密着の重要性がベースにあり、地産地消をきっかけに幅や深みを求めていくと、それが進化してCSVとなる流れになっています。
●社員一人ひとりが、地域とビジネスをしていくという意識が根底にあって、それを進めるために、行政とのエンゲージメントを構築している。そうした信頼関係の中で、行政とのアイディアを生まれていますね。
安見 様:まさにその通りです。突然地域に出向いて挨拶したところで、何も話は進みません。継続してコンタクトする組織や仕組みがあるからこそ出来ることです。
●貴社自らが、地域の課題を解決するプレーヤーの一人となっていますね。こうした個人のミッション感やモチベーションはどこから生まれていますか?
安見 様:やはり、自分が関わり開発した商品やサービスが売れたり、手応えがあればうれしいですし、成功事例が出来れば自分の担当エリアでもやってみようという、良い循環になっています。
●これまで、貴社のイメージと言えば、効率性をとことん追及する会社という印象を持っていましたが、こうした話を伺うと、他のコンビニには行きづらいですね。また、貴社では、グループ会社が一体となって、社会価値創造部会という取組みもされています。
安見 様:社会価値創造部会は、グループ会社全体でCSVを意識し、考えていくことを目的に、2016年9月に組織化しました。
千葉様:グループ会社各社からは、様々なアイディアが出て成果も出始めています。
例えば、ロフトでは、部会をきっかけとして、エシカル商品の製造・販売が進められています。赤ちゃん本舗では、会員の方々を対象に、子育て安心電話相談サービスをスタートしました。
また、社内での取り組みとなりますが、そごう西武では、CSVのアイディアを社員が考える社内コンペが開催されています。
●各社のそうした取組みは、それぞれの会社の企業文化として根付いていけばいいですね。
千葉様:グループとして掲げている5つの重点課題がありますが、そうした課題に対して、事業会社が出来ることを自社の強みを生かして取り組んでいます。
<セブン&アイHLDGS. の重点課題>
- 高齢化、人口減少時代の社会インフラの提供
- 商品や店舗を通じた安全・安心の提供
- 商品、原材料、エネルギーのムダのない利用
- 社内外の女性、若者、高齢者の活躍支援
- お客様、お取引先を巻き込んだエシカルな社会づくりと資源の持続可能性向上
●今後は、こうした取組みを一般のお客様ともっと共有し、共感性を高めていきたいですね。
では、最後に社会課題解決の観点から、今後の展望をお聞かせ下さい。
安見 様:社会価値創造の材料は、次から次へと自然に生まれてくるものではありません。それは、常日頃から仕事に組み込んでいるからこそ創出されるイメージです。それには、外部の方々と色々な話をすることがとても重要です。それが良いヒントなり、繋がりを生むことになります。
地域を担当するマネジャーが行政の方々と話しをしますが、行政の窓口は一つではありません。
地産地消を担当する農業や産業振興の部門もあれば、インバウンドを促進したい観光担当の部門もありますが、今後は、地域全体を盛り上げていくことが、私たちの活動のベースになると考えています。行政との連携の中で、様々な部署の方々と繋がり、弊社として少しでも関わりを持ちたいと考えています。
繰り返しになりますが、私たちは、普段の業務を通してそうした事への考えてを深め、拡げていく。そうしたことにこだわって新しいことに取り組んでいきたいと考えています。
●今後の活動にも注目していきます。本日は、貴重なインタビューの機会を頂きまして有難うございました。
皆さま:こちらこそ、ありがとうございました。
■コラム執筆・インタビュアー
エンゲージメント・ファースト 萩谷 衞厚
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