勝ち方へのこだわり 「SDGsが問いかける経営の未来」

日本においても、2018年時点ですでにSDGsは広く浸透しつつある。資本市場で同時期に注目され始めたESG投資とも絡み合い、経営者からの注目も高い。(中略)一方で、SDGsが世界に対してなげかけている根本的な”問い”については、実は十分に理解・浸透が進んでいない。SDGsは、単なる外部規範ではない。単なる資本市場からの要請でもない。あるいは、単なる新規事業やイノベーションの種でもない。SDGsは、過去数十年にわたりグローバル資本主義の中で脈々と構築されてきた現代の企業経営モデルの根幹を揺るがす変化(進化)を要請しているものだ。(本書より)

今回のブックレビューは、SDGsをテーマにした、昨年末に出版された一冊 「SDGsが問いかける経営の未来」(日本経済新聞出版社)

企業戦略のサステナブルへのシフトは、グローバル企業を中心に、疑いようのない潮流となりましたが、国内では、一部の大企業や経団連の取り組みやGPIFのESGへの対応等のクローズアップに留まり、SDGsそのものも広く浸透しているとは言えないのが実態です。

朝日新聞によるSDGsの認知度調査では、聞いたことがあるとの回答は、わずか14%。

また、昨年末の経産省が中小企業経営者を対象にした調査でも、「SDGsについて、全く知らない」企業が、84.2%。「SDGsへの対応や検討を行っている」との回答は、わずか2%の結果となっています。

私見となりますが、特に中小企業の認知度が低く対応もできていないのは、SDGsが新しい社会貢献やフィランソロピーの延長線上であり、経営戦略の一つになることが理解できていないこと、環境配慮への対応にはコストが掛かりそうといったこと、そもそも、社会課題解決の企業経営は以前から日本企業には根付いていて、既に取り組んでいる等の声が上がっているのが、がその要因になっていると思われます。

そうした中、本書は、SDGsが登場した世界的背景を踏まえ、企業セクターを対象に、あるべき経営革新のあり方や、そうの具体的アプローチ方法をフレームワークを活用しわかりやすく解説しているのが本書となります。

著者には、”CSV時代のイノベーション戦略 「社会課題」から骨太な新事業を産み出す”(ファーストプレス)の著者も含まれ、その基本的な考え方は、企業によるCSV取り組みへの重要性がその根幹をなすものであり、本書では、SDGs時代の経営戦略 CSV2.0として紹介しています。

●なぜ国内では広く浸透していないのか?

SDGsの考えを組み込んだ企業経営やCSVを進める上での企業や国内の課題がいくつかの観点から指摘されています。

「三方よしの落とし穴」
日本国内でのCSVに対する受け止め方が指摘されていますが、前述の通り、「CSVは日本企業が歴史的に取り組んできたことであり、昔からある「三方よし」を語っているに過ぎない」という指摘があります。

こうした意見に対しては、売り手の責任は、取引先等も含めたサプライチェーン全体に拡大しており、その責任は、将来にわたり求められること、そして、社会課題や地球環境をより具体化、本書では解像度を上げることが求めらるとしています。
例:パタゴニアの地球環境へ対応→オーストラリア タスマニア島をエリアとした野生生物の生物多様性保全

「国内の企業に対するコーチ役の不在」
これは以前から言われていることですが、国内のNGO、NPOは海外の同団体と比べると脆弱で海外の様に、政府や投資家、企業等との連携により、制度やルールの形成等には至らないのは現状です。
企業にとって耳の痛い指摘や要求も届かないことが多く、それが「コーチ役の不在」としています。

よって、気候変動をはじめとするサステナビリティに関する国際交渉においても従来の産業界の声を代弁することを優先するため、課題解決に立脚した主張を展開できず、押し切られることが多い。

つまり、海外の企業に比べて、日本企業はコーチ不在のため、社会課題やサステナビリティへの感度を高めることが必要であることを主張しています。

●企業に今求められる大義や品位

本書では、企業の大義を定義するにあたり重要な観点は、「パーパス」(Purpose)、つまり、存在意義にあると述べられています。

詳細は、ぜひ本書で示される戦略カスケード をご覧頂きたいのですが、ここでいう「大義」とは、5つのステップの1つ目に示されていること。
また、これからの ”エコ” システムとして、競争優位性の要素して以下項目が挙げられています。

これまで:機能・品質・価格

これから:機能・品質・価格 ✕ 社会課題解決(大義力)✕ ルール(秩序形成力)

大義は、先程のパーパス、ルールとは、ユニリーバのRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)、ウォールマートのサステナビリティ・インデックスがそれに相当するでしょう。

ミッションやビジョンは、あくまで「自社がこうしたい」という一人称の考え方から、ステークホルダーや社会等、第三者視点も含め何を期待されているのかという観点から自社を俯瞰し「なぜ自社が存在するのか?」つまり、「存在意義」を問うこと。
その「存在意義」を考える上で、企業はより謙虚に社会全体や全てのステークホルダーに配慮し、地球市民の一員である企業としての品位が求められる時代に突入していると改めて感じられました。

さらに、新しい時代の今、企業に求められる新しい「勝ち方」とは?本書からの引用でその内容を紹介しましょう。

戦略の本質は「勝つ」ことである。当然、競争市場においては競争相手に勝つことが重要である。逆に勝利を度外視した戦略は戦略と呼べない。SDGsが問いかける未来においても、戦略の本質は変わらない。求められるのは「勝ち方」の変化である。競争相手を蹴落とすために社会価値の毀損をするのはもってのほか、社会価値と経済価値創出を同時に実現するような勝ち方でないと、もはや勝利とは呼べないのだ。

●注目すべきサーキュラーエコノミー
SDGsが目指す世界観には、自社だけではなく、サプライチェーン全体での取り組みが求められることは前述の通りとなりますが、これまでの3R(リデュース・リユース・リサイクル)やゼロエミッションから、製品の100%リサイクルと新規資源投入ゼロで新たな製品を作る、サーキュラーエコノミーが図表を用いてわかりやすく解説されています。漠然とした理解が、本書を通してその本質や内容を理解することができました。

昨年10月には、環境省とフィンランド・イノベーション基金の共同開催により、世界的なイベントであるWorld Circular Economy Forum 2018が日本でも開催されたことは、特筆すべき出来事でした。
買い手までも巻き込み、シェアリングエコノミーにも通じるサーキュラーエコノミーは、今後も注目すべきキーワードとなるでしょう。

2020年の東京五輪が後押しとなって、その浸透も加速すると言われるSDGs。前々回に紹介した「SDGsの教科書」と併せて、ビジネス・パーソンには必読の一冊と言えます。

Staff Blog:萩谷 衞厚

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