本コンテンツはこれまで、民間企業の方々を中心に、インタビューを実施させて頂いておりますが、今回は、ご縁あって、特別に経済産業省 局長へのインタビューの機会を頂きました。
現在注力する取組みや今後の展望、日本企業へのメッセージ等、それはまさに株式会社 日本のCSVであり、モノ・コト両軸での豊かさやソーシャル・グッドを実現する取組みとして受け止めることが出来ました。是非、ご覧下さい。
<インタビューにご協力頂いた方>
経済産業省
産業技術環境局長
末松 広行 様
一昨年前、エポックメイキングな出来事として初の局長クラスの交流人事が行われた事が、メディアに取り上げられているのを拝見しています。自己紹介も含めて、その辺りのいきさつを教えて下さい。
2016年6月に局長同士の初の人事交流ということで、農林水産省 農村振興局長から、経済産業省 産業技術環境局長へ就任しました。
農水省での直前の仕事は、基盤整備やインバウンド等、農村地域の振興に関わってきました。経産省に異動して、一見全く違う仕事になり戸惑った面があります。
政府全体としては、経産省は海外に目を向けてどうやって日本を売り込むかということを中心に取り組む一方、農水省は、国内の資源、土地、農業を守るということに主眼を置いています。
永続的に続ける必要のある地域での農業を守るという視点はとても重要ですが、一方で、農業や食料産業の観点からは、もっと外向きにも考えないといけないという時期であると考えています。
経産省も海外に売れるコンテンツとして、最近では和食等が挙げられます。これまで日本国内で磨かれてきたことが今回の人事交流によって、それぞれの省の良いところをお互いに拡めていこうという狙いがあります。
経産省で仕事をするのも、基本的には同じ行政であるため、民間の方々の状況を踏まえてそれをうまく組み上げて予算や法律を作っていく、国会や様々な関係者の方々と調整し仕事をしていくということでは共通しています。
一方で対象となる方々の違いはかなりあります。それによる役所としての姿勢の違いはかなりあると感じています。
経産省は日本のために、次に何が重要なのかを常に探していくという視点がとても重要です。農水省では、今あるものをどうやって発展させていくのかという視点が求められます。
経産省に異動して、次に何が大切になるか、何で稼ぐかという視点で日本を見ると、意外とこれまで国内で着実に伸びてきた、繰り返しになりますが、和食や日本の農産物、ものづくり、アニメをはじめとするコンテンツ等、実は世界の中で支持されているものになっています。
これまでは、自動車やエレクトロニクス等、様々な産業を外にと考えてきましたが、それ以外にも日本から世界に売れるものはたくさんあることを実感しています。
現在の経産省で主に取り組んでいるテーマは何ですか?
現在注力しているのは、研究開発、標準、環境の3つの分野が挙げられます。
研究開発は、AI、IoT、ロボティクス等、最先端の分野で、日本が世界の中で技術を開発してイノベーションを起こし、具体的な産業に結び付けていくかが求められますが、まだ日本にも様々なチャンスが残されています。また、分野を取捨選択し絞り込んで支援を重点化していくことが大切だと思っています。
具体的には、AIは日本の産業にとっても、全ての企業にとって重要な技術となります。囲碁の能力を向上させたり、ビックデータをもとに予測をしたりすることは、海外の企業がかなり先行しています。
一方で、日本は、AIが考える前の温度や視覚等のセンサーの技術や、ロボットを動かす技術が非常に優れています。
要するに、単純にAIの頭脳だけで考えて情報を提供したり、プロモーションに結びつけたりすることも重要ですが、それに加え、具体的にモノを動かしたり、作ったり、そこに繋げていくことは、日本に一日の長があると感じています。ものづくりに活かすAIの分野はこれからも可能性があると思います。
二つ目の標準に関しては如何でしょうか?
現在、日本には工業標準化法という法律があって、様々な製品にJISマークがついています。つまり、現在の法律はモノに対する規格の法律となります。しかし、規格化が求められるのは、モノだけではなく、データやサービスでの規格化が求められ重要であると考えています。
JISマークを工業の範疇から、全ての産業、つまりモノづくりだけではなく、サービスやマネジメント等、標準化の対象を拡げるための法整備を検討し、国会へ法案も提出しています。
国が規格を作る際には、審議会、調査会等の組織がチェックをしていますが、民間の然るべき組織がそうした規格を作った時は、それをそのまま認めることも進めたいと思っています。また、民間企業が国際的な規格を作ることも支援もしていきます。
色々な分野で規格を作ること、そして、それら規格を認証する機関を設立し、認証の仕組みを作ることを海外では積極的に行われています。日本も様々なビジネスのグローバル化が進むと、商品の規格化や認証はとても重要になります。
世界の流れに日本が追いつける様、法律も変えていきますし、セミナー等を通して、マインドも変えていきたいと考えています。
標準化を進めることで、成長している企業はたくさんあります。標準化を進めることは、特許を取得することとは違って、様々な取り決めをオープンにすることです。
オープンにすることによって市場全体を拡げて、自社も成長していく。規格を統一することにより、消費者に利便性も提供する、つまり、CSV的な観点からもとても大切なことだと思います。
取り決めをオープン化することの有効性をもう少しを教えて頂けますか?
アメリカのボルチモアという街で過去、大火事がありました。製品の標準化で語られることが多い話ですが、火事が発生して、様々な州から消防隊が駆けつけましたが、消火栓のサイズが違っているためホースが使えず、消火活動が難航したということがありました。
規格を作ることは、個別の企業のためだけではなく、関係する全ての企業にプラスとなります。標準化を進めることにより、個別の企業が受ける恩恵が限定される事もあるかもしれませんが、それを上回るプラスのメリットがあるものとして戦略的に考える必要があります。
QRコードを開発したデンソーは良い事例です。二次元バーコードの仕組みを特許で囲うことはせずに、全て人々に開放して、様々な利便性を提供しています。
デンソーはQRコードを読み取る技術を持っていたため、結果的にデンソーのビジネスも拡がりました。
特許で独占しなかったことによって、QRコードが広まり、自社の事業が拡大したということですね。
QRコードが普及することによって社会の様々な人が恩恵を受けましたし、デンソーも自社の強みを伸ばすことが出来たと言えます。
今のお話をお伺いして、日本のガラケーを思い出しました。
まさにそうです。全体をプラットフォームで拡げ、その中で得意な分野で儲けることがビジネスモデルとして求められます。しかし、日本の弱点は、全てを囲い込みたがること。そうしたことは、変えることが大切ですし、そうした動きを促進しようと考えています。
例えば、硬さの測定方法を標準化することも考えられます。自社で作られたものの硬さが満たされているのか、基準を満たしたものかどうか、標準化によって簡単に見分けられます。
以前に経産省が進めるカーボンフットプリントの普及啓発やプロモーションに関わりました。CO2の排出量をバリューチェーンを通して把握し定量化することは、とても手間とコストが掛かる取組みと感じました。標準化とは言っても、中小企業には少々ハードルが高いと感じましたが、如何ですか?
既にある既存の標準に合わせようとすると、特定の測定器や測定方法が必要だったりしますが、これからは、自分たちの得意なやり方や測定方法をルール化しようということです。
そうしたルール作りの分野は、日本は遅れていましたが、これからは先行して基準を作らないといけない時代となりましたし、作り方にも工夫が必要です。
例えば洗濯脱水機の安全性を定める幾つかの規格があります。アジアのある国では、その規格に適合しない商品は販売出来ない規制がありました。
その規格とは、脱水機の扉は内部が止まってからでないと開くことができないといった内容でした。
しかし、日本製の脱水機は、扉を開けると自動的に内部の動きが止まるという安全な仕組みであるにも関わらず、結果的にアジアのその国では販売できないということが起きました。
安全であり便利であることをどう定義するか、そうした定義を先行して行わないとうまくいかない事があります。
すでに欧米諸国で作られていたものを日本のメーカーが作るのであれば、既存の規格に合わせて作ればそれで良いかと思いますが、新しい製品を作るときには、その規格や品質の良さの測定方法を先に決めることが今後とても重要になります。
国内だけで仕事をするのであればそれで良いかもしれませんが、海外でもビジネスをしようとすれば、標準化はとても大切です。
これまで70年位、規格の法律はモノに着目していましたが、サービスにも拡大していこうというのが、現在の動きです。
具体的にサービスの規格化は、どの様な分野への適用を検討していますか?
保冷宅配便の国際規格を作ろうとしています。例えば、宮崎で生産された美味しいマンゴーをシンガポールの人が食べたいと思ったときに、注文はネットで簡単に出来ます。注文を受けた宮崎の農家は、クール便で出荷することで、シンガポールの空港まではクール便で届きますが、そこから先、シンガポールの購入者までのサービスが不明確になります。しかし、クール便の国際規格があれば美味しいマンゴーがクール便で世界中の購入者に届けることが出来ます。
こうした新しい産業の分野で規格を整備しようとしています。既に日本に良いビジネスモデルがあるのであれば、それを世界標準の仕組みとして規格化していくことが重要です。
様々な分野で日本が胴元になってしまおうという事ですね。
そういう事です。先程の日本の携帯電話会社も、自らが胴元になって拡げる道もあったのに、各社同じ様な別の仕組みを作りました。そこに、海外の別のもっと大きなプラットフォームが登場し、そちらへシフトしてしまいました。
日本には欧米とは異なるアジアの生活様式があります。アジアの様々な国々の生活を豊かにするために、ルールを作っていくというのは、これからもポテンシャルがあると思います。
欧州に対して日本は学び追いつくことが必要ですが、アジアではアジア各国と一緒にアジアらしい仕組みを作ることが求められていると思います。
三つめの環境に関しては如何でしょうか?
環境への取組みは今後、企業が進めるCSVや社会貢献の観点からもとても重要になるでしょう。
一番感じることは、環境に対して、日本国内で活躍している企業と海外のグローバル企業との意識が乖離していることです。
世界のグローバル企業は、今こそ、一歩でも二歩でも先に進もうという意識が強くなっていますが、日本企業はそうした意識が希薄であると感じます。日本企業の地道にやっていくことも必要ですが、グローバル企業は高めの目標を掲げ、そこに向かって進んでいくという発想が主流を占めていると思います。
地道に進めることも重要ですが、特定分野に集中して進めることが重要だという声が欧州企業を中心に拡がっています。
様々なことをバランス良く進めることが大切ですが、各国が様々な意見を打ち出す中で、日本はどう立ち振る舞っていくのか、とても難しい時代となっています。
日本全体で考えれば、日本の技術を使うことによって、世界のCO2削減に貢献できることはたくさんありますし、国際的に協力して進めることが重要です。そうしたことをそれぞれの企業が事業として進めつつ、CO2削減にも寄与していくことが重要です。
現在、日本の温室効果ガス排出量は、世界の2.7%で地球規模での影響は大きくありません。しかし、日本の環境技術を海外に提供することにより、多大なCO2の削減を見込む事ができますし、そのポテンシャルを日本企業は持っていると思います。
そうした可能性があることを自社で認識し海外でPRすること、また、そうした戦略を自社に組み込むことが重要です。
政府としてもその重要性を国際的にも伝えていくと共に、経済的な視点に加え、CO2削減効果もきちんと評価してもらえる様に企業と協力していく必要があります。
私たちは、グループ企業を含めて、インターネット関連の事業に関わっていますが、そうした分野での環境への貢献はどの様なことが考えられますか?
エネルギーの使用や物流等のマネジメントにインターネット技術を活用することにより、CO2削減に大きく貢献できるかと思います。こうした取組みは、日本の得意分野であると思います。
スマートシティーによる新しい街づくりの分野ですね。
どこでCO2が排出され、削減できているのか、様々な発電方法をどう制御するのか、全体最適を考えながら管理していくのは、IoT技術と共に、日本の優位性が高い分野です。
2017年11月、ドイツのボンで、COP23が開催されましたが、アメリカの企業は、会議場があるスペースにパビリオンをオープンし、We are still in というスローガンを掲げていました。つまり、我々はパリ協定に参加している、アメリカは約束するというメッセージです。また、欧米の銀行や証券会社は、ESG投資の重要性を強く訴えていました。
そうした動きに日本企業も追随しないと、環境に対して日本企業は消極的であると思われます。そうした理由でビジネスが停滞するリスクも高まっていることを認識すべきです。
ご指摘の様に、海外のグローバル企業と比べて日本企業は、ESGへの意識、最近では、SDGsへの取組みもあまり積極的でないと感じますが、その要因は何だとお考えですか?
二つの理由が考えられます。
一つは、これまで、そうしたグローバルでの環境対応の流れに乗らなくても何とかうまくやって来れたということ。
二つ目は、個人的な意見となりますが、日本企業は総じて真面目なため、実現可能かどうかわからない事にはコミットしない。SDGsも17のゴールがあり、目標が掲げられていますが、目標達成に至る道筋が明確にならないと口外しないといった考えがあるかと思います。
達成できるか分からないが、目標として掲げて頑張ろうといった風土がグローバル企業にはあるかと思います。先日、省内のある職員がエリクソンの本社に行きましたが、SDGsへの取組みも非常に積極的であったと聞いています。そうした企業が欧米を中心に増えていますが、見習うべきです。
トヨタのビジョン2050やリコーの取組み等、日本企業もグローバルスタンダードで欧米企業にも影響を与える企業もありますが、目標として掲げないことは、ビジネス面でリスクであることも認識すべきです。
ESGについても欧米では投資家の意識は変わってきています。そして、出来そうな目標を掲げてもイノベーションは起きません。また、そうした考え方は、日本政府としての政策にも問われていますので、そこは省内でも議論していきたいと考えています。
SDGsに関して、もう少しお考えを頂けますか?
欧米ではこれまで、NGO等が企業に対して正すべきことを指摘し、両者が対立的に議論をしてきました。今後はSDGsが出来たことによって、企業もNGOも同じ方向を向くことが出来る、同じ船に乗れるコンセプトが出来たと考えることが非常に重要です。
SDGsというのは、その同じ船に企業とNGOが乗って、互いに背中を押し合う、そういうものであり、これからの世界でやるべき事が端的に書かれているとても大切なものです。
SDGsという概念はこれから益々大切になりますし、もっと浸透していくことでしょう。これからは、うまく日本企業も活用していくことが重要です。
最後に、経済と環境との両立の重要性の観点から、民間企業へのメッセージをお願いします。
今後、環境が経済発展のエンジンになることは間違いありません。そして、それを強く認識して頂きたいと思います。また、日本企業は、これまでの経済発展の中で、いくつかの壁がありましたが、それを乗り越えてきました。
日本は先進国として、与えられた制約や無理難題を押し付けられてそれを乗り越えるビジネスモデルではなくて、自らが壁や目標を作ることが重要であると思います。
進むべき方向性が見えていれば、一歩踏み出す、そうした意思決定をしていくことが大切だと思います。
そうした中で、環境と経済との両立が求められますが、企業活動を行う上で、環境の旗を掲げた方が業績が上がる時代になってきていることを、認識して頂きたいと思います。以前と比べるとそうした取組みを行う企業は増えてきていますが、それら企業はもっと評価されるべきですし、プロモーションも重要であることを企業トップも認識すべきです。
私たちは、こうしたインタビュー記事の紹介を通して、CSVやSocial Goodな企業を応援し、そうした取組みを行う企業の方が企業価値が上がることを証明したいと常々考えています。
ESGの取り組みが積極的な企業の方が、長期的には企業価値も上がるということへの認識が世界的にも高まっている今だからこそ、一歩踏み出す絶好の機会と捉えるべきです。
環境への対応は負担が増えるという議論が必ず出ますが、対応しないことへのリスクは、益々高まることを理解すべきです。
最後に、少し観点は異なりますが、田舎では野菜の無人販売でもきちんと集金できる、そうした価値をどう測定し、その良さをどう伝えるのか?お金を儲けて良い生活をするだけではなくて、これからは、違った価値もあることを伝えていきたいと考えています。
■編集・インタビュアー
エンゲージメント・ファースト 萩谷 衞厚
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