ソーシャルグッド・パートナー対談 石川 淳哉氏 第2回

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石川 僕がソーシャルグッドプロデューサーとしての活動を始めてちょうど15年ほど経ちますが、近年ソーシャルグッドに対する世間の理解が高まって来たと嬉しく感じる反面、まだまだ浸透していないと残念に感じる場面も多いです。原さんはその辺り、どのように感じていらっしゃいますか。

原  企業間だけでなく、個人間でも理解や関心に差がありますね。セミナーを開いても、まだまだ他人事だという人もいれば、うっすら興味はあるという人、実践したいけれど、どう社内をくどけばいいのか真剣に悩んでいる人など、様々です。2017年になって興味を持ち始めた人はぐっと増えた印象ですが、まだCSVをボランティアやCSRと混同している人も多いのが実情ですね。

石川 そこの誤解を解いていかないといけないですよね。CSVはビジネスなんですよと。

原  そのためには僕達がたくさんの成功事例を出していくことが不可欠です。関心はあっても「ソーシャルグッドでやって行けるのか」と警戒して二の足を踏んでいる企業も多いと思います。そういった方々に対し、ビジネスとして成立することを証明して行くことも、僕や石川さんの使命だと思っています。

石川 社会を良くして行くことが経済的な価値にも繋がるという仕組みを一つでも多く作ることが、我々の共通したミッションですね。

原  「社会を良くして行こう」なんて言うと、青臭く捉えられがちですが、僕達はむしろ『青黒い』んです。社会価値だけでなく、ちゃんと経済価値も生み出したい。僕達がサスティナブルでなければ、人を説得できません。

石川 『青黒い』というのは、まさに僕達にぴったりの表現ですね。それと、CSVを実践できるのは特別な個人や企業だけだと思っている人もまだまだ沢山いるので、その思い込みも解いていかなくてはいけない。

原  確かにそうですね。例えば僕は10年以上、無印良品さんとの仕事を通じていろいろと学んだのですが、講演やセミナーで彼らの素晴らしい考え方やマーケティング施策を事例として紹介をさせて頂くと「無印だから出来るんだ」と言う人が必ずいます。でも、そんなことはないんです。小さい企業でも、別の業種でも、参考にして取り入れられることは沢山あります。ですから例えば、銀行に無印良品の話をすることもあります。その場合「銀行の中の無印良品になりましょう」といった形でお話をします。それはどういう事かと言うと、目先の利益や競合との差別化を考えるのではなく、まず、お客様とShared Value出来ていますか、お客様と共有出来る価値を持っていますか、ないなら作りましょう、ということです。

石川 CSVが機能している企業に共通した特徴はなんでしょう。

原  CSVが上手く回っている企業は、自社のやるべき事、『Why』が企業の中心にあり、それが何かを社員全員がよく理解しています。そしてその価値に顧客やサプライヤーなど関係者が共感しているということが言えます。例えばネスレにせよユニリーバにせよ、国内なら無印良品や大垣共立銀行も、CSVの先進企業にはまずやるべき事(Why)があり、その次にWhyを達成するための手段(How)があり、それはどういう商品になるか(What)という順番で進んでいますが、大体の人はWhatやHowは考えられるけれど、そもそも一番初めに考えなくてはいけないWhyまで到達していないことが多い。特に雇われ経営者だと利益追求を短期間に要求されるので、WhatとHowだけでWhyは置き去りにされ、壁に書かれているだけの状態になりがちです。そこが大きな違いでしょう。

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石川 目先の利益だけをいくら追ってもソーシャルグッドにはならないし、誰も幸せにならない。もうそれが分かってしまっているのに、ビジネスモデルを変えられない、引き返せない企業があまりにも多い。

原  CSVに取り組んで成功している企業というのは、実は一度ビジネスが危なくなった企業が多いんです。まさに目先の利益を追いすぎて。その時に、自分達は本来何をするべきか(Why)を徹底的に考えた末にCSVに辿り着いています。マーケティングコンサルタントのサイモン・シネックがTEDで行なった有名なスピーチ

https://www.ted.com/talks/simon_sinek_how_great_leaders_inspire_action?language=ja があるのですが、そこで彼も「Start with Why」と言っています。日本の大手企業というのは、多分Whyのところ(創業理念、ビジョン等)に必ず『社会的な価値を生み出す』のようなことが書いてあるはずです。なのに、それが出来なくなってしまっている。もともとはそのためにビジネスを立ち上げたはずなのに、本末転倒で、ビジネスのためにビジネスをするようになってしまった。ですからこれから必要なのは、『Why』の部分をもう一度明確化して、昔の人が愚直にやっていたことを丁寧にやっていく事ではないかと思います。無論、ここでいうWHYには共感性が高いWHYがないと成功しません。

石川 僕は文学部卒なので、つい夢見がちになるのですが(笑)、そう言いながらも、ここ数年で覚醒した人がどんどん増えている気がしています。今はそんな人々に大きな団体の継続可能な仕組みが追いついていないだけなのではないかと。

原  確かに変わって来ています。若い世代はソーシャルグッドな人が多いので、我が社も社員を募集すると、社会課題を解決していく企業だからという理由で選んで来てくれる人も多いです。そして、そういう人は概して優秀で意識が高い。

石川 極端なことを言うのは簡単なんです。でもそうではなく、みんなが幸せになって、社会的課題も意識しながら、しかもちゃんと稼げるという、ちょうど真ん中、両方が噛み合うフリンジ(境界)のようなスタンスがいい。実はそれが一番難しいのですが、僕はそのやり方で個人が輝き、世界が輝く未来を実現したい。それが僕達コミュニケーションを生業にしている人間のこれからの役目だと思っています。

原  僕も同じ考えです。ビジネスインパクトだけ徹底的に追いかけるというのも、もう限界だと思うんです。リスクも大きいから色んな不祥事や事故も起こる。といって、ソーシャルインパクトだけでは経済的に立ち行かない。そうではないちょうど間に生まれたのが共有価値、Shared Valueだと思っています。

石川 CSVがなかなか進まない理由の一つとして、生き方を変えたり価値観を変えることを恐れる人が多いからということもあります。

原  ビジネスインパクトを求める生き方からShared Valueを求める生き方にシフトするのは、決して転がり落ちることではなく、将来性のある新しい価値に向かうことです。これからはそれが大事なんだという事を理解してもらいたいですね。むしろこれからはShared Valueの方にビジネスオポチュニティも沢山あるということにも気づいて欲しいです。

石川 原さんが執行役員を勤める、エンゲージメント・ファーストの親会社であるメンバーズが取り組んでいるCSVの好例に、ニアショア開発を取り入れた『里山エンジニア事業』がありますね。日本中をシステム開発拠点にし、地方に若手のエンジニアが移住して自然に囲まれた環境で東京と同じ仕事を行なえるとあって、注目を集めています。これについて少し教えてください。

 

原  もともとは東北復興を目的にWeb制作の拠点として仙台のサテライトオフィス(ウェブガーデン仙台)を立ち上げたことが、メンバーズが「地方と人」にフォーカスしたビジネスモデルに転換するきっかけでした。これは震災の3ヶ月後にたった3人でスタートしましたが、現在では100人を超える仲間がジョインしてくれてます。開設の理由が東北復興なので、ソーシャルグッドな目的と人材が手をあげてくれたおかげで、実はモチベーション(仙台をITで復興する!)が高く、それゆえに生産性も高い弊社のクリエイター拠点となりました。その後、地方での働き方に着眼し北九州にも拠点を作り、同様に100名を超えました。人件費の安い海外を使いコスト競争力を高める戦略ではなくて、逆の戦略を取ったのが、我々のCSV戦略です。日本の地方での雇用を増やしたい、働き方を変えたいという思いが様々な困難を乗り越え、今に至っています。さらにその考えを推し進め2017年4月に設立されたのが、先ほど仰っていただいた(株)メンバーズエッジという新会社です。今度は地方どころか里山に少人数のエンジニア・チームでオフィス作ってしまい、都会で疲れたエンジニアに自然と共生しながら仕事をしてもらおうという発想です。里山からITで地方を活性化するという我々のCSV事業です。

石川 御社の地方での展開は地域貢献だけではなく、生産性が高いということですね。かつ、定着率も高いそうですね。

原 東京だと大体デジタル人材は3年半くらいで辞めていくんです。若いデジタル人材の需要は高いので、大手代理店や大手企業に転職していきます。でも地方だと他に転職先がないということもありますが、それ以上にハッピーだから辞めないんです。仕事内容と給料は都心と同じだけど、家と職場が近いのでラッシュのストレスもなく、子どもと過ごす時間も創れる。モチベーション高くいられるわけです。こういった事は企業にとって大きなメリットですし、彼らに仕事を頼んでいることで、その土地や若者を支援していることにもなるため、関心を持つ企業も増えています。

石川 里山エンジニア事業によって地方に来た若者がそこで結婚し、子供が産まれて定住したら、さらに大きな価値を生むことになりますね。それが既に起こっているので、素晴らしいなと。都内にいた時と同じ仕事をして、同じ金額の給料を得ながら、都心のオフィスと違って里山なら「竹の子を煮たから食べなよ」なんて近所の人が持って来てくれたりといったコミュニケーションも生まれるでしょうし、煮詰まってもガラッとドアを開けた目の前が美しい自然だったりしたら、ストレス度合いもぜんぜん違うでしょう。そんな環境に魅せられて若い人が里山に移住し、そこに根付くことによって地域に若い人が増えるところまで行って欲しいですね。スキルの高い若者が増えれば自治会などの運営も効率アップするでしょうし。非常に優れたビジネスモデルだと感心しています。

原  CSV戦略の話をする時って、デジタルでエッヂを立てて業界で1番になろうぜ、なんていう言葉は一言も出て来ないんです。テクニカルな話もありません。それこそが今の社会課題に立脚したビジネスモデルだと思います。メンバーズ自身もShared Valueの方向に価値転換できたことで、これまで競合とされて来た大手代理店やプロダクションと一線を画することができました。おかげさまで東証一部上場も果たすことができました。

石川 今、地域にはDMO(ディスティネーション・マーケティング・オーガニゼーション)、DMC(ディスティネーション・マーケティング・カンパニー)といった担い手が必要とされています。ただ、自治体だけではそれは出来ません。人々が思っているだけでも実現は難しいでしょう。そこを繋ぐ役目の人間が必要なんです。エンゲージメント・ファーストはまさにその役割を担う企業だと思っています。

原  そうなりたいと思っています。上手く回っているソーシャルグッドのビジネスモデルは、すべて人間が中心です。これからも人間中心のマーケティングシステムをどんどん作って成功させていきたいです。実は最近Shared Value Agency®(共有価値創造代理店)で商標登録を取りました。もう後戻りできません(笑)

石川 それは非常に大きな覚悟の表れですね。僕はソーシャルグッドプロデューサーとして15年間ずっとひとりぼっちでやって来たから、巻き込める相手が出来て嬉しいです。

原 こちらこそ、そう言って頂けて光栄です。一緒に「青黒く」頑張りましょう。

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